住宅ローンの繰り上げ返済のデメリット
記事作成日:2016年5月27日
最終更新日:2022年7月26日
住宅ローンの繰り上げ返済のデメリットについてです。借金は利息が発生するため基本的に早く返すほど良いと考えられますが、早期繰上返済にはデメリットが全く無いわけではありません。
住宅ローンの繰り上げ返済を行うと利息負担が減少するメリットがあることはよく知られていますが、住宅ローンの繰り上げ返済にはメリットだけでなくデメリットがあることは意外と知られていません。団体信用生命保険がなくなること、手元のお金が少なくなること、期限の利益を放棄することになること、税制上の措置を受けられなくなること、インフレ時に実質的に損をする場合があることなどが住宅ローンの繰り上げ返済のデメリットとして挙げられます。
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団体信用生命保険が無くなる
住宅ローンを借りるとほとんどの場合、団体信用生命保険に加入します。団体信用生命保険とは、住宅ローンの返済中に死亡した場合や高度障害の状態になった場合に、住宅ローンの残高が保険で支払われて完済される保険です。
住宅ローンの繰り上げ返済をすると、一部繰り上げ返済でも全部繰り上げ返済でも、繰り上げ返済した金額分は団体信用生命保険で保障されなくなります。
判断に迷う例として、退職金で住宅ローンを返済すべきかどうか、という問題があります。住宅ローンは定年となって年金生活に入る前に完済するように借入期間を設定するのが常識とされていますが、場合によっては定年退職後も住宅ローンの返済が続くような期間で借り入れを行っている場合があります。
繰り上げ返済で団体信用生命保険がなくなり大損をする場合
退職時にまとまった退職金が入ったからといって、退職金を原資に住宅ローンを完済すると結果的に大損をする場合があります。住宅ローンを返している人の健康状態が悪化していて、住宅ローンの残債がかなり残っているような場合には注意が必要です。
退職金で住宅ローンを完済してから、不幸にも早い時期に亡くなってしまった場合、住宅ローンを退職金で完済しているため退職金は減ってしまい、完済しているため団体信用生命保険からお金が支払われることはありません。一方、退職金で住宅ローンを完済していなければ団体信用生命保険で住宅ローンが完済され、返済原資に回されなかった退職金が残ります。
手元のお金が無くなってしまう
利息負担を減らすため、住宅ローンをどんどん繰り上げ返済をしていくという考え自体は家計にとって良い考え方です。しかし、家計の収支が苦しい状況で、手元のお金をギリギリまで繰り上げ返済に回してしまうと、手元のお金が無くなってしまい、いざという時に困る可能性があります。
借金をしていると手元にお金を残すくらいなら、繰り上げ返済に回そうという気持ちになります。もちろん繰り上げ返済をすることで利息負担が減らせるため、家計にとってメリットがあるのですが、備えとして手元にある程度まとまったお金を残すということも重要です。
繰り上げ返済で無理をして困る場合
後先考えず手元に残ったお金をギリギリまで繰り上げ返済に回していると、まとまったお金が必要になった時に困ってしまいます。
例えば、公立の学校に進学すると言っていた子供が急に私立の学校に通いたいと言い出して教育費が必要になった場合、病気やけがで治療などにまとまったお金が必要になった場合、事故や災害などにあって当面のまとまった生活費が必要になった場合、急な転勤になって転居などで自己負担分のお金が必要になった場合などが考えられます。
無理をした繰り上げ返済で、手元にお金がほとんど残っていないといざという時に困ってしまいます。繰り上げ返済をすることは大切ですが、手元にお金をどれだけ残すかということも考えておきましょう。
低金利の借入の期限の利益を放棄することになる
お金を借りる時には返済期限が決められますが、お金を借りた時に期限まで返さなくていいことを期限の利益といいます。利息が発生する代わりに、返済期限がくるまで借りたお金は自由に使って良いということです。
事業をする時は重要な考え方になりますが、もし低金利でお金を借りることができているなら借りたお金を元手にして事業を拡大し利息以上の利益を上げれば儲けることができます。
繰り上げ返済で低金利の期限の利益を放棄し損する場合
家計のお金に関しても期限の利益のメリットを考えることができます。例えば低い金利で住宅購入費用を借りることができている場合、無理に繰り上げ返済をして手元のお金が無くなってしまい、住宅ローン以外のカードローンやキャッシングなど高い金利のお金を借りなければいけない状況になるくらいなら、住宅ローンを繰り上げ返済しないで安い金利でお金を借りたままにしておけばよかったということになります。
金利の低下によって、住宅ローンは1%を切るような極めて低金利で借りられる場合が多くなっているため、家計の状況次第では低金利で借りられている借金を返してよいのか、慎重に考えた方が良い場合もあります。
住宅ローンは低金利で多額のお金を借りられるとてもお得なローンだと考えることもできます。
住宅ローン控除を受けられなくなる
住宅取得を促進するため、住宅ローンを借りると税制上の優遇措置を受けることができる場合があります。税制上の優遇措置として住宅ローン控除が有名です。住宅ローン控除とは、一定の条件を満たす住宅を購入する場合、住宅ローンの一定割合の金額だけ、所得税の税額控除を受けることができるというものです。つまり、住宅ローンの残高に応じて税金が安くなるのです。
繰り上げ返済で税金の控除を受けられず損をする場合
金融緩和による低金利が続いているため、住宅ローンの利息よりも住宅ローン控除での減税額が多くなることがあり、お金を借りることでお金を受け取れる実質的なマイナス金利の状態になる場合さえあります。そのため、焦って住宅ローンの返済をしてしまうと減税の適用を受けられる金額が減ってしまい、損をしてしまうことがあります。
また、住宅ローン控除の住宅ローンの残高は毎年12月末現在で判定されるため、年末近くで繰り上げ返済を行うと損をする場合があります。年が変わって1月に入ってから繰り上げ返済をした方が得になる場合があります。
他にも税制上の特例が受けられなくなる可能性がある
税制の変更によって制度が変わる可能性があるため、その都度適用できるものがあるかを確認する必要がありますが、住宅ローンがあることによって住宅ローン控除以外に何らかの税制上の特例を受けることができる場合があります。
今までにあった事例として、住宅ローンが残っているマイホームを売却した時に、住宅ローンの残高よりも低い価格でしか売却できず、取得費と譲渡費用の合計額が売却金額を上回り譲渡損失が発生した場合には、所得税の計算で損益通算や繰越控除の特例を適用することができるというものがあります(本記事をご覧になっている時点でどのような税制上の措置の適用を受けることができるかはその都度ご確認ください)。もし、自宅の売却に先立って住宅ローンを完済してしまうとこの特例が受けられなかった可能性があります。
そのため、住宅ローンの繰り上げ返済を考えている場合は、どのような税制上の措置を受けられるかを調べておいたほうが良い場合があります。
インフレ発生時に相対的に損をする可能性がある
住宅ローンに限らず、借金をしている場合一般に当てはまりますが、物の値段が上昇するインフレが発生すると、固定金利で借金を借りている人は、借金の負担が実質的に減るため得をすることがあります。
例えば、1か月の給料が20万円の時に毎月5万円を返済する借金の重みよりも、1か月の給料が30万円の時に毎月5万円を返済する借金の重みの方が軽いと考えられます。なお、物の値段だけが上がって、給料などもらうお金が増えない場合にはインフレが発生しても借金の実質的な負担が減らないことがあります。
繰り上げ返済でインフレ発生時に損をする場合
固定金利、特に全期間固定金利で住宅ローンを借りている場合で、給与などを含めた世の中の物・サービスの価格の上昇するインフレが発生した場合、インフレによって借金の負担が実質的に軽くなります。インフレが発生する前に借金を返済すると相対的に重い負担になり、インフレ発生後に借金を返済した場合よりも実質的に損をしていることがあります。
まとめ
- 住宅ローンの繰り上げ返済を行うと利息の負担が減るためにメリットが大きいですが、デメリットもあります。
- 住宅ローンの繰り上げ返済を行うことによるデメリットには、手元のお金が少なくなる、団体信用生命保険を受けられなくなる、期限の利益を自分から放棄することになる、税制上の優遇措置が一部受けられなくなる、インフレ発生時に実質的に損をするといったことが挙げられます。