奨学金を借りてまで大学に行く意味
記事作成日:2022年7月12日
奨学金を借りてまで大学に行く意味や必要があるのか、大学の学問は実践的ではなく社会では役に立たなくわざわざ借金してまでいく価値がある程なのか、といったような考え・悩みについてです。
結論としては、経済的な面からは多くの人にとって奨学金を借りてでも大学に行った方が平均的には良い結果になると考えられます。ただし、あくまで平均的にはであって、人によって悪い結果となってしまうこともあります。これは大学を卒業してから就職した場合の生涯賃金が高校を卒業してから就職した場合の生涯賃金を大幅に上回るため、奨学金の利息を考えても平均的には元が取れると考えられるからです。
もちろん、経済的なメリット以外にも大学に行く意義はあります。
スポンサーリンク
大学卒業で収入が増えるから
統計から大学を卒業することによって平均的には生涯賃金が上昇することが明らかになっています。そして大学卒業による生涯賃金の上昇は、大学にかかる費用を上回ります。そのため、経済的な面からは奨学金を借りてでも大学に行く意味があります。
大学にかかる費用
大学に通っても、就職して働いても、生活費はかかることから、大学に通うことで純粋な学費部分が支出に上乗せされると考えます。なお、生涯賃金で比較するため、大学に通っている間働けなかった機会損失は生涯賃金で考慮されるため、別途検討する必要はない事になります。
6年制となる医学部、歯学部、薬学部、獣医学部を除く4年制の学部を想定した場合、総務省統計局「小売物価統計調査」や文部科学省「私立大学等の入学者に係る学生納付金等調査結果について」などを踏まえると、大学の入学金と授業料は、概ね国立大学でおよそ250万円、私立大学の文系でおよそ350万円、理系でおよそ500万円となります。これに教科書・参考書等大学生活に必要と考えられる固有の費用を考慮すると国立大学で300~400万円前後、私立大学で400~700万円前後が大学にかかる費用になると考えられます。
奨学金を借りた時に追加負担する利息
奨学金の借入金額や返済期間は人によって異なりますし、金利も借入時期によって異なりますが、奨学金を年率1%で多めの500万円借り、20年間かけて返済すると、利息総額は50万円強となります。
なお、元本部分も当然返済義務が発生しますが、大学に通うための支出に充てられて考慮されているため、改めて考慮すると二重形状になるため、利息部分のみを追加負担として計算します。
大学卒業で得られる追加的収入
大学卒業によって平均的には生涯の賃金が増加します。独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計 ―労働統計加工指標集―」によると、企業規模や男女、転職の有無、退職金を考慮するか等によって差が生じるものの、高卒と大学卒(一部データは大学院卒も含めたデータ)の生涯賃金では数千万円の差がついています(少なくとも1000万円以上)。
もちろん、これはモデルケースであって幾つかの仮定の下に行われている計算であることや、平均的な結果に過ぎないため人によって結果は異なるため、大学を卒業すると必ず生涯賃金が決まった額増えるという訳ではありません。しかし、平均的に見ると大学に通うことによって生涯の収入は増えることになります。
奨学金を借りても大学卒業すれば人生における収支は改善
大学を卒業することによって生涯賃金は平均的に見れば1000万円以上増加することになります。
一方、大学に通うことで、入学金、授業料、教科書代など各種費用が300~700万円程度発生します。また、奨学金を借りた場合、追加的な利息負担が金利情勢にもよりますが数十万円(大半の場合が100万円以内に収まると考えられます)発生します。そのため、大学卒業までに固有の支出が発生しますが、1000万円以内に収まると考えられます。得られる追加的収入(限界収入)は大学にかかる費用を余裕で上回ることになります。
そのため、生涯で見た場合、大学卒業によって、例え有利子の奨学金を借りていたとしても、収支(収入-支出)は平均的には改善するということになります。つまり、奨学金を借りても、大学卒業による経済的なメリットがあることになります。
日本は学歴社会の部分がある
学歴が全てではありませんが、日本では学歴によって職業、社会的地位、社会的信用、印象などが一定程度左右される学歴社会の部分があります。
人間付き合いが深まれば多面的に相手のことを理解することができますが、短い時間でしか関わりがなく相手の人間について得られる情報が限られている場合、学歴は相手のことを判断する重要な要素となり得てしまうことがあります。
大学などを卒業したということは卒業に必要な能力があることを証明していますし、入学や卒業までに必要な一定の努力ができることを証明することにもなります(シグナリング)。
大学を卒業する能力があるにもかかわらず、もし経済的な理由で大学に通えないということになると、本来の能力を証明する有力な手段を1つ失ってしまうことになりかねません。
そのため、奨学金を借りてまで大学に行く意味があるのです。
自分に近い集団の中で人間関係を得られる
大学に入学するためには推薦入試であっても、一般入試であっても、何らかの選抜があります。そのため、同じ大学に入学している人は、自分と学力などが似た人がいて、自分と学力などが近い集団が形成されていると考えることができます。
そのため、大学生として4年間を過ごすことで、自分との親和性が高い友人や恋人などの人間関係を得られる可能性があります。
大学では、サークルや部活、ゼミ、研究室など小さな集団で緊密に活動する機会も多くあるため、深い人間関係を得る機会に恵まれていると考えられます。
長い人生において人間関係は自分にとって金銭では評価できないような貴重な価値を持つものになることがあります。
専門的な知識や幅広い情報が得られる
大学に通うことで自分が望む分野の専門的な知識を得ることができます。将来就きたいと思う仕事に必要な、あるいは役に立つ専門的な知識を得ることができます。また、大学における研究は成果を追い求めるため、幅広い最先端の情報を得ることができる場合があります。
もちろん、大学で学ぶことが必ずしも仕事で役に立ったり、生きていく上で役に立ったりするとは限らないのですが、長い人生、どこでどんなことが役に立つかは分からないもので、こんなことは役に立たない、意味がないと思っていたことでも、実は違うということがあります。
視野が広がる
高校までの教育は有用であることは間違いないのですが、大学で学ぶことと比べると範囲が限られている、高度な内容の取扱いは限られているといったことがあり、限界があります。
大学で専門分野でなく一般教養として学ぶことであっても、高校で学ぶことよりも幅広い事柄を学ぶことができるため、自分の視野を広げることに大いに役立つことがあります。もちろん、専門的な内容を深く突き詰めていくことができます。
また、自分とは異なる人間と多く接する機会を持つため、自分とは異なった観点からの情報や知識を得ることができます。
視野が広がることで大学を卒業した後の活動に生かしていくことができると考えられます。
就職までに4年間時間がある
日本では新卒時の会社選びが社会人生活にとって重要な意味を持ちます。もちろん転職は一般的に行われますが、日本では新卒採用が特に重要視されているため、最初に入った会社が今後の人生を大きく左右することがあります。
高校卒業時点の18歳と大学卒業時点の22歳(浪人や留年などがなく4年生の学部を選択した場合)では、判断力、社会的な経験、人間関係の厚さ、知識などに大きな違いがあります。
もちろん、大学卒業時点の22歳であっても、社会人として第一歩を踏み出す前なので限界はありますが、18歳と比べると4年分の積み重ねがあります。そのため、18歳で最初の職業選択を行うよりも、22歳で最初の職業選択を行う方が、選択を誤る確率を減らすことができると考えられます。
サークルや部活動、ゼミなどを経験できる
高校までの学校生活でも部活動、クラブ活動、同好会などがありますが、大学生活の特徴としてサークル活動や部活動を挙げることができます。同じ興味・関心・趣味を持つ人たちと活動するという点は同じですが、高校までと比べると自由度、裁量の幅が広がります。
また、少人数で発表や討論などを中心に学ぶゼミ(ゼミナール)など大学以外ではあまり経験することができない経験ができることも大学に通う意義の1つです。
4年間モラトリアムとして比較的自由な時間が得られる
モラトリアムとは遅延する、一時停止する、猶予期間などというような意味があり、大学生の生活を指してモラトリアムという場合は、社会に出るまでの猶予期間という意味で用いられます。大学生は高校生と比較すると、どのような講義をいつ受けるか裁量の幅が広くなり、真面目に勉学に取り組んだ場合でも、自由な時間をある程度確保することができます。
社会に出るまでの4年間に学問はもちろんですが、アルバイトやボランティアなどを通じた社会経験、同学年のクラスやサークル・部活動などを通じた人間関係の形成、旅行や短期留学などによる海外の経験などをすることができます。また、趣味などの活動に打ち込むこともできます。
社会人になると、時間的なゆとりが少なくなる場合があるため、大学生として4年間は長い人生の中で貴重な期間となります。
まとめ
- 平均的には大学を卒業することによって、大学にかかる費用を超える収入の増加が見込めるため、経済的な面からは奨学金を借りてまで大学に行く意味があることになります。
- また、大学に行くことには経済的なメリット以外にも、人間関係が得られる、視野が広がる、学歴社会の部分がある日本で社会的な信用が高まる、時間的なゆとりを持てるなど多くのメリットがあります。