パートの社会保険加入の損得は?106・130万円の壁を超えるメリットとデメリット
記事作成日:2018年11月8日
パートで働いている人が社会保険の壁と呼ばれる106万円の壁・130万円の壁を越えて稼ぎ、配偶者の被扶養者から抜けて自分自身が社会保険に加入するとどうなるのか、損なのか得なのか、というメリットとデメリットについてです。
社会保険に加入すると、短期的に見ると手取りが減少するため損をしているように感じるかもしれませんが、支払った社会保険料の一部は厚生年金保険料となるため将来の厚生年金が増えていきます。そのため、長い目で見ると手取りが減っても必ずしも損であるとは言えないのです。
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パートで働く人の106万円・130万円の社会保険の壁とは
社会保険上、配偶者に扶養されている人がパートで働く場合、週30時間以上働き、年収が130万円を超える(通常は月額で判断)と自分自身が社会保険に加入することになりますが、このことを130万円の壁と呼びます。
ただし、大企業(従業員501人以上)で働く場合は、週20時間以上働き、月額88,000円以上の給与を受け取っている(年収で約106万円相当)と社会保険に加入することになる場合があり、このことを106万円の壁と呼びます。
社会保険の壁を超えると、社会保険に加入することになり、毎月の給料や賞与から社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)が差し引かれることになります。
狭義の社会保険と労働保険の加入条件は異なる
なおここでいう社会保険は狭義の社会保険で、労働保険(雇用保険・労働者災害補償保険(労災保険))を含みません。雇用保険は31日以上引き続き雇用されることが見込まれる人で、1週間の所定労働時間が20時間以上、の場合加入することになり、雇用保険料の支払いが発生しますが(厚生年金保険料や健康保険料と比べると安い)、失業した場合、育児休業を取得する場合、教育訓練を受ける場合などに給付が受けられることがあります。
パートで社会保険に加入することのメリット
社会保険に加入すると、社会保険の給付が受けられるようになることがメリットです。厚生年金保険加入で、老後の年金(老齢厚生年金)、障害年金、遺族年金などが増えることがメリットとなります。また、健康保険加入で、被扶養者の時は受けられなかった傷病手当金や出産手当金を受け取れるようになります。
社会保険に加入すると将来もらえる年金が増える
社会保険の壁である「106万円の壁」や「130万円の壁」を超えると損をするということがよく言われますが、支払った社会保険料のうち厚生年金保険料は将来の厚生年金(老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金など)の増加につながります。手取りが減ってしまうけれど、一方で厚生年金がもらえるようになります。
社会保険料は雇われて働く人と雇う人(事業主)が折半して保険料を負担するため、年金を増やすために必要な保険料の半額を事業主に負担してもらっていると考えると少しお得に感じられるかもしれません。
老後の年金が増えることがある
社会保険に加入していると、老後にもらえる老齢厚生年金が老齢基礎年金(国民年金)に上乗せして増えていきます。老齢厚生年金は働いて得た収入に応じて年金額が増えていく仕組みになっているため、長く働けば働くほど、収入が増えるほど、将来の年金を多くもらうことができるようになります。
障害年金や厚生年金で有利になることがある
厚生年金保険の被保険者である間に障害を負った場合には障害基礎年金(国民年金)に加えて障害厚生年金の支給が受けられることがあります。障害厚生年金の支給要件は障害基礎年金よりも広くなっている部分があるため、厚生年金保険に加入していると有利な場合があります。
不幸にして亡くなってしまった場合でも、遺族基礎年金(国民年金)に加えて遺族厚生年金が支給されることがあります。やはり、遺族厚生年金の方が遺族基礎年金よりも支給条件が緩やかな部分があり、有利になることがあります。
健康保険の被扶養者から被保険者になるともらえる給付が増える
社会保険に加入するということは健康保険に加入することを意味します。健康保険は自分自身が加入している場合(被保険者である場合)と扶養されて加入する場合(社会保険上の被扶養者である場合)で、給付にあまり差はないのですが、傷病手当金と出産手当金があるかないかという違いがあります。
傷病手当金がもらえるようになる
自分自身が健康保険に加入すると、病気やけがで働くことができなくなった場合に、連続した3日の待期期間を経て、傷病手当金の支給を受けられる場合があります。
働くことができなくなり、給与等が支払われなくなった場合や大幅に減額されてしまった場合に、健康保険から傷病手当金が支給されるため、生活の不安を和らげることにつながり、治療に専念できるようになります。病気やけがで休んでも、給与等が十分に支給されている場合は傷病手当金は支給されません。
出産手当金がもらえるようになる
健康保険に加入していると、被保険者であっても被扶養者であっても、出産した場合に一時金(出産育児一時金、被用者の場合は家族出産育児一時金)の給付を受けることができます。しかし、出産前後に働かなった場合、自らが健康保険に加入している場合は出産手当金がもらえる場合がありますが、被扶養者として加入している場合は出産手当金を貰えないという違いがあります。
出産手当金は、出産の日以前42日から出産の日後56日までに働かなった期間について、給与等が十分にもらえなかった場合に、お金が支給される制度です。
健康保険組合の場合は付加給付を受けられる場合がある
一部の大企業などで働いている場合、独自の健康保険組合が組織されていて加入することがあります。健康保険組合では、本来の給付に加えて、上乗せの付加給付が行われる場合があり、通常よりも多くのお金を受け取ることができる場合があります。そのため、付加給付が充実している健康保険組合に加入した場合、お得になることがあります。
また、健康保険料で事業主と被保険者(加入者)の負担が折半ではなく、事業主側が多く負担することによって加入者の負担が抑えられている場合もあります。
支払った社会保険料は社会保険料控除として所得控除できる
支払った社会保険料は、所得税や住民税の計算上、社会保険料控除として所得控除できます。社会保険料は支払った金額を全額控除できるため、各種控除等を考慮しないで非常に大雑把な計算をすれば「支払った社会保険料×税率」の分だけ所得税や住民税等の負担が抑えられることになります。
収入を気にせず働くことができる
社会保険の壁(106万円や130万円)を気にして働くと、思ったように働けないことがあります。しかし、社会保険の壁を超えると決めてしまえば、働く日数や時間を調整したり、無理して収入を抑えなくても良くなります。一旦壁を越えてしまったら気にせずに働けるようになります。
パートで社会保険に加入することのデメリット
パートで働いている人が、社会保険料の壁(106万円の壁、130万円の壁)を気にするのは、社会保険料の支払いが発生して手取りが減ってしまうためです。社会保険に加入することで手取りが減ってしまうことはデメリットとなりますが、長い目で見れば、年金が増えるなどのメリットもあり、一概に損であるとは言い切れません。
手取りが減ってしまう
社会保険に加入することになった場合、社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料)が毎月の給与と賞与から差し引かれることになります。
配偶者などの健康保険上の被扶養者のままであれば、配偶者が社会保険料を支払えば被扶養者が何人いてもそれ以上追加で保険料が差し引かれることはありませんが、自らが社会保険に加入すると、これまで支払わなくてよかった社会保険料を支払うことになるため手取りが減少することになります。
社会保険の壁と呼ばれるいわゆる「106万円の壁」や「130万円の壁」を少しでも超えると社会保険料が引かれるようになるため、給与は増えたのに手取りが減ってしまうという状態に陥ります。
「106万円の壁」や「130万円の壁」を超えるのであれば、状況によって異なりますが30万円前後上回らないと社会保険料で減った分を補えないため、壁を超えるときは大きく超えるようにしないと手取りが減ってしまいます。
配偶者が加入する健康保険組合に付加給付があると特殊な状況で損することがある
配偶者が大企業などに勤めていて健康保険組合に加入している場合、付加給付と呼ばれる上乗せ給付が通常の給付に加えて支払われることがあります。例えば、出産時には被扶養者は家族出産育児一時金が支給されますが、付加給付金や付加金という名目で、数万円が上乗せして支払われることがあります。
そのため、出産前に扶養から抜けて自分自身で健康保険(協会けんぽ)などに加入すると付加給付金が支給されずに数万円を受け取れなくなるという特殊な状況が発生しえます。
ただし、健康保険は被扶養者として加入すると傷病手当金や出産手当金が支給されないため、出産前後に出産のため会社を休んだ時は被扶養者のままでいると損をする場合があります。
まとめると、健康保険に関しては、出産育児一時金を受け取るけれど、出産手当金を受け取る予定がないという特殊な状況の場合で、配偶者が健康保険組合の加入者(被保険者)である場合、付加給付金がある場合、被扶養者のままでいた方が少し得をすることがある、ということになります。
パートが社会保険に加入するのは損なのか得なのか
主婦などが配偶者が加入している社会保険で被扶養者として扱われていた場合、パート先で社会保険に加入することになると社会保険料の負担が発生し、手取りが減るため、一見損をするようにも思えます。
しかし、社会保険料を支払うことによって自分自身が厚生年金保険に加入することになり将来の年金を増やすことができます。また、健康保険に自分自身が加入することになるため、条件に当てはまれば傷病手当金や出産手当金を受け取れるようになります。
そのため、手取りが減ることで目先は損しているように感じるかもしれませんが、長い目で見れば必ずしも損であるとは言い難く、社会保険料は事業主が半分支払ってくれているため、ある意味お得でもあるのです。
社会保険に加入できる状況であるならば、長い目で見た場合、加入していた方が安心につながりますし、年金が増えることによって得をする面があるので、損だから加入しないと身構えなくても良いのではないでしょうか。
まとめ
- パートで働いている人が社会保険に加入すると、厚生年金保険加入で将来の年金が増える、健康保険の被保険者となり傷病手当金や出産手当金の支給対象となるなどのメリットがあります。
- 一方で、社会保険加入によって、社会保険料が給料や賞与から天引きされていくことになるため、手取りが減ってしまうことがデメリットになります。