名目金利と実質金利の関係式
記事作成日:2015年11月13日
最終更新日:2021年10月25日
名目金利と実質金利の関係についてです。米国の経済学者であるアービング・フィッシャー(Irving Fisher)が唱えたフィッシャー方程式では「名目金利=実質金利+期待インフレ率」とされています。また、実際の市場の金利の動きは、「名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+リスクプレミアム」と考えることができます。
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名目金利とは
名目金利とは物価の上昇を考慮しないで、額面通りに見た表面上の金利のことです。例えば100万円に対して1年で6万円が支払われるとすると6÷100=6%となり、年率6%の金利となります。これは名目金利です。
実質金利とは
実質金利とは物価の上昇を考慮した、実質的な金利のことです。名目金利から物価上昇率(インフレ率)を差し引いて求めることができます。
例えば100万円に対して1年で6万円が支払われるとすると6÷100=6%と名目金利は6%になります。ここで同じ1年間で物価が2%上昇していたとすると、6%-2%≒4%が実質金利となります。
実質金利の具体的なイメージ
物価を考慮するとなぜ実質金利になるか、具体例をイメージしてみます。最初に1個5,000円の商品があったとして、100万円で購入できる数と1年後に商品が2%値上がりし、名目金利が6%だった場合に買える数を比べてみます。
100万円÷5,000円=200個購入できます。物価が2%上昇しこの商品も2%値上がりしたとすると、5,000円×2%=100円、5,000円+100円=5,100円となります。
一方で、100万円が名目金利6%で6万円の利息が支払われて100万円+6万円=106万円になったすると、106万円で買える5,100円の商品の数は106万円÷5,100円≒207.8個購入できます。207.8-200=7.8個分購入できる数が増えていて、7.8÷200=0.039=3.9%となり、6%-2%=4%の実質金利とほぼ同じとなっています。
なお、実質金利を正確に求める場合は(100+6)÷(100+2)-1=0.039215…となり、小数第4位で四捨五入すると3.9%となります。
名目金利が6%の場合、物価変動がなければお金が6%分増えていることになりますが、物価が上昇するとその分実質的な価値が目減りしてしまうことになります。
名目金利と実質金利の関係式
名目金利と実質金利の関係式は次のように考えると分かりやすく理解できると思います。
期間をy年、名目金利をi%、実質金利をr%、物価上昇率をp%とします。名目金利から物価上昇率分割り引いたものが実質金利なので次のような関係になります。ここで名目金利、実質金利、物価上昇率は毎年一定としています。ただし、毎年変わったとしても極端な変化でなければ、次の式に近い結果が得られます。
(1+i)y÷(1+p)y=(1+r)y
ここで両辺について年数のy乗根をとり、(1+p)を掛けると「(1+i)=(1+r)・(1+p)」となり、両辺を展開すると次の式になります。
1+i=1+r+p+rp
ここでrとpをかけたrpはrやpと比べると小さいため近似的に「i=r+p」または「r=i-p」となります。つまり「名目金利=実質金利+物価上昇率」、「実質金利=名目金利-物価上昇率」となります。
名目金利と実質金利の関係は予測
「名目金利=実質金利+物価上昇率」、「実質金利=名目金利-物価上昇率」の式は、実質金利=実質期待経済成長率(あるいは潜在成長率)、物価上昇率は期待物価上昇率(期待インフレ率)と置き換えられて用いられます。
名目金利と実質金利、物価上昇率の関係は債券を購入する時点から将来のことなので、名目金利と実質金利の関係式は確定した数値として知ることはできず、債券を購入した時点では全て予想する値ということになります。そのため物価上昇率は期待物価上昇率ということになります。そして、実質金利は期待実質金利ということになります。
期待実質金利は期待実質経済成長率に近似
期待実質金利は期待実質経済成長率と似たようなものだと考えることができます。実質金利は市場でお金を運用した時に物価を考慮してもらえる利息ということになりますが、市場で投資した時の均衡的な収益率と考えることができます。
投資家の立場から金利を考える
金利を国債の債券利回りと考え、投資案件にはリスクがないと仮定して考えます。投資家の立場で考えると、仮に市場で妥当と考えられている収益率が5%であれば国債の利回りが2%や3%であれば魅力がない投資対象だと考えられてしまいます。そのため国債の価格が下落し、国債の利回りが5%に近づいていきます。
資金調達する立場から金利を考える
続いて市場から資金を調達する立場で考えてみます。国だと分かりにくいため、企業が資金調達をする場面を考えます。市場の金利が5%の時は金利5%で資金調達ができることになります。この企業は金利5%で資金調達を行っても事業活動で5%以上の利益を上げられるならば金利5%で資金を調達して事業活動を行います。
例えば事業活動で6%儲けられるなら、6-5=1%分の利益が得られます。つまり企業は事業活動の利益率と均衡するまでは市場金利で資金調達を行います。仮に企業が5%の利益を上げると考えているならば、市場金利が3%なら資金調達を行います。6%なら資金調達を見送ります。そのため、市場金利は企業が考える利益率の5%に収束していきます。
実質金利は実質経済成長率に均衡
企業の立場から見ると企業が考える利益率と市場金利は均衡します。また、投資家の立場から見ると市場金利から収益率が外れている投資対象資産は収益率が市場金利に均衡していきます。つまり、市場金利は企業が考える利益率に均衡します。
さらに、経済は数多くの企業の集合体なので経済の成長率は市場金利に均衡することになります。実質金利は実質経済成長率に均衡することになるわけです。なお、長い目で見れば実質期待経済成長率は潜在成長率と考えることができます。
国の立場で考えても同じ
企業の立場から考えましたが、国の立場でも同様です。資金調達金利を下回る経済成長率しか実現できないのであれば資金調達を行うのは合理的ではないため資金調達を見送り、資金調達金利を上回る経済成長率を実現できるのであれば資金調達を行って公共投資や政府消費をすると考えられます。
実際の名目金利は他の要因の影響も受ける
名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率という関係が成り立ちますが、実際の市場では式の前提の仮定である投資案件にリスクがないということは成り立ちません。価格変動リスクが大きいほど投資家は投資をためらうからです。
例えば、確実に年率1%が得られる投資案件と、年率1%が得られるが1割の確率で全く収益が得られないことがある投資案件では、確実な方を選ぶと思います。ただし、確実でない投資案件も収益率が上がると投資される場合があります。例えば、確実に年率1%が得られる投資案件と、年率10%が得られるが1割の確率で全く収益が得られない投資案件であれば、後者に投資する人も出てきそうです。
つまりリスクがあっても、その分収益率に上乗せ(リスクプレミアム)があれば投資されることがあるのです。国債は安全性が高い投資資産だと考えられていますが、リスクは0ではありません。そのため、名目金利が国債の利回りに相当すると考えると名目金利は次のような関係式になります。なおリスクプレミアムには、債務不履行以外にも様々な要素が影響します。
名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+リスクプレミアム
まとめ
- 理論的には「名目金利=実質金利+物価上昇率」、「実質金利=名目金利-物価上昇率」と近似できます。
- 実際の市場の金利の動きは、「名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+リスクプレミアム」と考えることができます。