流動性プレミアム仮説とは
記事作成日:2018年5月9日
最終更新日:2021年10月28日
流動性プレミアム仮説とは、満期までの期間が長い債券は、換金が難しくなる流動性リスクが大きくなるため、大きなリスクに見合った分だけ利回り(金利)が高くないと投資家は投資をしないため、満期までの期間が長いほど流動性プレミアム(流動性リスクに応じた上乗せ金利)が加わるため利回り(金利)が高くなるという仮説です。「長期金利=短期金利(リスクフリーレート)+流動性リスクプレミアム」という考え方です。
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流動性プレミアムとは
プレミアムとは、リスクの大きさに応じて投資家が要求する上乗せの期待収益率(利回り)を意味します。もし、リスクが小さい債券とリスクが大きい債券があり、両者の期待収益率(利回り)が同じであった場合、投資家はリスクが小さい債券を選ぶ傾向があります。リスクが大きい債券はその分利回りが上乗せされないと投資家が購入しないため、利回りが高くなる傾向があるのです。
流動性とは、市場などにおける売買のしやすさ、換金のしやすさを意味します。債券の場合には、原則として保有期間に応じて利息(クーポン)が発生し、満期まで保有することによって償還されて収益を得られることになるため、満期まで資金が拘束されます。途中で売却することも可能ですが、買い手が見つかるまで時間がかかったり、不利な条件で取引せざるを得なかったりするリスクがあります。
流動性プレミアムとは、流動性に関するリスクがあることに対して発生するプレミアム、投資家が要求する上乗せ利回りとなります。
ただし、金利の期間構造を説明する場合の流動性プレミアム仮説における流動性プレミアムについては、単純な流動性に対するプレミアムだけではなく、保有期間が長くなることによって金利変化に伴う価格変動リスクが大きくなることに対するプレミアムも含まれていると考えるのが自然です。
流動性プレミアムの例
流動性プレミアムをイメージしやすい例として定期金利の預金金利が挙げられます。預金をする人が投資家で、預金という投資をします。1年の定期金利の預金金利が年率で0.5%だったとすると、5年の定期金利の預金金利はどうなるでしょうか。普通は1年の定期金利の預金金利よりも高いと思うはずです。
- 1年定期金利預金:0.5%
- 5年定期金利預金:?%
長い期間預金(=投資)するのだから、より高い金利なはずだと考えるはずです。もし、5年定期金利の預金金利が1年と同じ年率0.5%だったらわざわざ5年預けるメリットがないと思うはずです。
- 1年定期金利預金:0.5%
- 5年定期金利預金:0.5%
更に、5年定期金利の預金金利が1年定期金利預金よりも低い年率0.3%だったらどうでしょうか。長い期間定期預金で資金が拘束されるのに、少ない利子しか受け取れないなら預金しないはずで、不自然だと感じる場合が多いはずです。
- 1年定期金利預金:0.5%
- 5年定期金利預金:0.3%
逆に1年定期金利の預金金利が年率0.5%、5年定期金利の預金金利が年率0.7%だったらどうでしょうか。期間が長くなるほど金利が上がっていて、不自然さは感じず、預金する人の事情によって1年の定期金利にする場合もあれば、5年の定期金利を選ぶ場合があるはずです。
- 1年定期金利預金:0.5%
- 5年定期金利預金:0.7%
定期預金の預金金利の場合、長く預けるならそれだけ高い金利が欲しいと感じる人が多いと思いますが、高い金利が欲しいという気持ちが流動性プレミアムにつながるのです。
上記の例であれば1年定期金利を短期金利とするならば、0.7%-0.5%=0.2%が上乗せ金利であり、1年定期預金と比較した5年定期預金の流動性プレミアムとなるのです。
流動性プレミアム仮説は順イールドを説明しやすい
実際のイールドカーブは「短期金利<長期金利」の順イールドとなっていることがほとんどで、満期までの期間が長いほど利回り(金利)が高い傾向があるため、金利の期間構造を説明する上である程度説明がしやすい説であると考えられています。
ただし、流動性プレミアム仮説では逆イールドを説明することはできません。そのため、流動性プレミアム仮説だけでイールドカーブ(金利の期間構造)を説明することはできません。
また、流動性プレミアム仮説は流動性に限ったプレミアムであるならば、市場で債券を売買できる場合には一定の流動性があるため説明が難しくなります。なお、市場で売買できても、完全な流動性ではなく、相対取引などによるため不完全な流動性であって、やはり流動性プレミアムが存在するという説明は可能です。
まとめ
- 流動性プレミアム仮説とは、金利は期間が長くなるほど価格変動や流動性に関するリスクが大きくなるため、リスクの大きさに見合った金利の高さでないと投資家が投資をしないため、金利は期間が長くなるほど高くなるという考え方です。
- 流動性プレミアム仮説は順イールドを説明することに適していますが、逆イールドの説明にはならないため、他の要因と合わせてイールドカーブの形状(金利の期間構造)が決まっていると考えるのが妥当です。