市場分断仮説とは
記事作成日:2018年5月9日
最終更新日:2021年10月27日
市場分断仮説とは、債券投資を行う投資家(銀行、年金基金、保険会社など)や債券の発行体(国、地方自治体、政府機関、企業など)はそれぞれ異なった特定の期間の投資、資金調達を行うことから、各期間の債券ごとに市場が分断されていて、短期・中期・長期・超長期の各債券で裁定が働かず、債券ごとの需給に応じて利回り(金利)が決定されるという仮説です。市場分断仮説は特定期間選好仮説と呼ばれることもあります。
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投資家(貸し手)の市場の分断
例えば、都市銀行や地方銀行などは5年の中期の国債や10年の長期の国債を中心に債券投資を行っています。年金資金を運用する信託銀行や年金基金、生命保険の保険料を運用する生命保険会社などは原資となる資金の運用期間が長いことから、20年、30年、40年など超長期の国債への需要が大きくなります。
- 都市銀行・地方銀行:中期の債券投資が中心
- 生命保険会社:超長期の債券投資が中心
発行体(借り手)の市場の分断
一般的な企業は10年の長期債や20年や30年などの超長期債ではなく1年~5年の短期債や中期債などを中心に発行して資金調達を行います。長期や超長期の債券を発行しても企業の事業サイクルと合いませんし、期間が長いと破たんリスクなどが高まるため投資家が敬遠する恐れがあるからです。
一方で中央政府や地方自治体、政府関係機関は10年の長期債や20年や30年などの超長期債を発行します。国や地方自治体の事業はインフラ投資などが含まれ、長期的な事業サイクルで資金調達を行う必要があるからです。
市場分断仮説と順イールド
市場分断仮説を前提とするのであれば、金利の期間構造においてよく観察される期間が長くなるほど金利が高くなる順イールドは、短期の投資を行う投資家は多い一方、長期の投資を行う投資家は少ないことが原因と説明されることになります。長期の投資は投資家にとってリスクが大きくなるため、長期投資を行う投資家は少なくないことが背景とされます。
市場分断仮説の妥当性
実際の市場の取引においては、特定の年限の債券の利回りが他の年限の債券の利回りよりも割高あるいは割安になっても、すぐに裁定が働かず、放置されてしまう場合もあるため、異なる年限によって市場の分断が起きているという考え方に一定の合理性があります。
しかし、市場分断仮説は、投資家が市場で売買を容易に行うことができ、年限が異なる債券の間である程度の代替性がある場合には、成立しづらい仮説でもあると考えられます。
日本においても、債券の利回り水準の変化に対応して、異なる年限への投資を増減させる現象がみられるため、当てはまらない部分もあると考えられます。
投資家が市場での取引を自由に行えない場合、異なる年限間の債券間の代替性が乏しい場合、市場の流動性が乏しく裁定取引に向いていない場合、相対取引などにより債券取引の取引手数料が高い場合は市場分断化説が成り立ちやすいと考えられます。
まとめ
- 市場分断仮説とは、年限が異なる債券間では裁定取引が働かず、債券間で市場が分断されているため、それぞれの債券の需給によって金利が決定されるという仮説です。短期金利よりも長期金利が高くなっている順イールドの状態は、短期の金利への投資家が多いためであると説明されます。
- 市場での債券の取引が活発で、債券間で代替が働き、裁定取引が可能な場合は、市場は分断されていないと考えられるため市場分断仮説だけで金利の期間構造を説明するのは難しいと考えられます。ただし、完全に自由な取引が実現しているわけではなく、取引量が少ないことがある場合には、市場分断仮説に一定の妥当性が出てきます。