為替レートの変動要因
記事作成日:2018年6月11日
最終更新日:2022年2月11日
為替レートの変動要因についてです。為替相場は、1つの要因だけで決定されるということはなく、複数の要因が絡み合って変動していきます。為替相場変動要因については、経済的な要因(ファンダメンタルズ要因)、政策・政治的な要因、市場要因(マーケット要因)に分けて考えることができますが、特に景気、金利、物価、経常収支、金融政策、市場介入などが重要な要因となります。
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重要な為替レートの変動要因
重要な為替レートの変動要因については次の通りです。
要因 | 通貨高要因 (日本なら円高) | 通貨安要因 (日本なら円安ドル高) |
---|---|---|
景気 | 回復 | 後退 |
金利 | 上昇 | 低下 |
物価 | 上昇 | 上昇 |
経常収支 | 黒字 | 赤字 |
金融政策 | 利上げ (引き締め) | 利下げ (緩和) |
市場介入 | 自国通貨買い | 自国通貨売り |
経済的要因(ファンダメンタルズ要因)と為替レートの関係
経済的な要因(ファンダメンタルズ要因)と為替レートの関係についてです。
景気と為替レート
景気が良い時は、企業業績の改善期待などを背景に株式などの投資対象の魅力が高まること、好景気によって金利が上昇することなどから、通貨高となる傾向があります。一方で、景気が悪い時は企業業績の悪化懸念などを背景に株式などの投資対象の魅力が低下すること、不況によって金利が低下することなどから、通貨安となる傾向があります。
景気動向については経済指標によって判断されるため、重要な経済指標が発表された時は為替レートが大きく変動することがあります。経済指標は絶対的な水準が良かったか悪かったかということも重要ですが、事前の市場の予想よりも良かったか悪かったかということがより為替相場に大きな影響を与える傾向があります。
金利(金利差)と為替レート
2国間の相対的な金利差は為替レートに影響を与えます。金利が高い国の方が投資対象としての相対的な魅力が高まるため、投資資金が流入し通貨高となる傾向があります。逆に金利が低い国の方が投資対象としての相対的な魅力が低くなるため、投資資金が流出し通貨安となる傾向があります。
そのため、金利上昇は通貨高要因、金利低下は通貨安要因となります。ただし、2国間の相対比較となるため、自国金利が上昇しても、相手国金利がそれ以上に上昇した場合には自国にとっては通貨安要因として作用することがあります。
物価と為替レート
物価と為替レートについては購買力平価説が有力ですが、物価が上昇するとその国の通貨の購買力が減り通貨の価値が下がるため、通貨安となる傾向があります。一方で物価が下落するとその国の通貨の購買力が増えて通貨の価値が上がるため、通貨高となる傾向があります。
特に物価と為替レートの関係については、中長期的に為替レートに影響を与えていると考えられています。
貿易収支と為替レート
輸出取引で相手国通貨を受け取った場合には自国通貨を買うため、自国通貨高要因となります。自国通貨を受け取った場合は貿易相手が自国通貨を前もって買うことになるため、やはり通貨高要因となります。
逆に輸入取引は相手国通貨で支払うと相手国通貨を買うため、自国通貨安要因となります。自国通貨で支払うと貿易相手が自国通貨で相手国通貨を買うため、やはり自国通貨安要因となります。
そのため、貿易収支が貿易黒字の場合は輸出取引が多いため通貨高要因となり、貿易赤字の場合は輸入取引が多いため通貨安要因となります。
経常収支と為替レート
経常収支には貿易・サービス収支、海外資産から生じる利子や配当金などによる第一次所得収支、対価を伴わない資産の提供に関する第二次所得収支で構成されます。経常収支と為替レートの関係も基本的に貿易収支と為替レートの関係と同様で、経常黒字は通貨高要因、経常赤字は通貨安要因となります。
経常収支が黒字の場合は相手国通貨の受け取りが発生して、相手国通貨による自国通貨の買いが発生するため自国通貨高となります。経常収支が赤字の場合は自国通貨の支払いが発生して、受取相手による自国通貨による相手国通貨の買いが発生するため自国通貨安となります。
通貨の国際的地位と為替レート
国際的な取引の中心となる基軸通貨や、国際的に活発に取引が行われる主要通貨などである通貨は通貨の国際的な地位が高く、中長期的に通貨価値が高まることがあります。
外国為替市場での流通量・取引量、国家の軍事力、国家の信用力、取引の容易さ、国家の経済的な地位、貿易取引の活発さなどによって基軸通貨や主要通貨が決まってきます。
通貨の国際的な地位は数十年、100年の単位で通貨の価値に影響を与えます。かつてはイギリスのポンドが、現在はアメリカのドルが基軸通貨です。また、主要通貨は米ドルの他に、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン等が含まれます。
欧州の債務危機が発生する前はユーロが米ドルの地位に迫るのではないかとみられていた時期があります。また中国人民元は国家の経済規模を踏まえると今後国際的な地位を高める可能性があります。
政府債務残高と為替レート
政府の債務残高が増大すると、財政の持続可能性への懸念が強まって投資家による資金引き上げの動きが加速してしまう場合があります。
政府の支払い能力に対して投資家が懸念を強めると、投資家の資金が流出し、債務危機・ソブリン危機へと発展してしまうことがあります。投資家の資金が流出すると投資家がその国の通貨を売るため通貨安要因となるのです。
外貨準備高と為替レート
外貨準備高が少なくなると対外的な債務の支払いが困難になるのではないかとの懸念が強まり、通貨危機が発生し、通貨価値が大幅に下落してしまうことがあります。
特に短期的な債務の支払いに対して一定規模の外貨準備高が用意されていないと、投資家が支払い不能となる事態を恐れて投資資金を一斉に引き出そうとすることがあります。また、政府が資金流出を恐れて資本の移動に制限をかける場合もあります。
政策的・政治的要因と為替レートの関係
金融政策や財政政策、貿易政策などの政策的な要因や政治的な要因と為替レートの関係です。
金融政策と為替レート
金融政策は為替レートの変動要因として重要です。金融政策は金利に影響を与えるため、金利の変化を通じて為替レートに影響します。
利下げや量的緩和の実施・拡大などの金融緩和が行われる場合、利上げの停止などの金融引き締めが終わる場合などは、金利の低下要因となることから、通貨安要因となります。日本を例にすると積極的な金融緩和は円安ドル高となる傾向があるのです。
逆に利上げなどの金融引き締めが行われる場合、利下げの停止や量的緩和の縮小・停止など金融緩和が終わる場合などは、金利の上昇要因となることから、通貨高要因となります。
経済・財政政策と為替レート
歳出拡大や減税などによる積極的な財政出動は景気の拡大・回復につながることから、金利上昇に結び付き通貨高要因となる傾向があります。逆に歳出削減や増税などによる緊縮的な財政政策は景気の後退につながることから、金利低下に結び付いて通貨安傾向となる傾向があります。
ただし、財政状況が悪化している場合には財政出動は投資家の警戒感を強める結果となって投資資金の流出、すなわち通貨安を招くことがあります。逆に財政状況が悪化している場合には緊縮財政は投資家の安心感を高める結果となり投資資金の流入、通貨高につながることがあります。
貿易・通貨政策(要人発言・市場介入)と為替レート
政府の貿易・通貨政策が為替レートに影響を与えることがあります。輸出拡大のために通貨安誘導を行う場合、輸入物価の高騰を受けてインフレ抑制のために通貨高誘導を行う場合などがあります。
例えば、アメリカは強いドルを志向しドル高政策を掲げる傾向があります。一方で、貿易不均衡の是正のために通貨の切り上げ・通貨高を要求することもあります。
自国通貨安を誘導する政策は自国の輸出拡大と相手国の輸入拡大となるため、近隣窮乏化政策であると非難されることがあります。そのため、通貨安との批判を受けないように通貨高となるよう誘導することもあります。
大統領や首相、財務大臣、中央銀行総裁、その他の政府や中央銀行の高官などが為替レートに関する発言(いわゆる要人発言)を行い、為替レートに影響を与えようとする場合があります(口先介入)。
口先介入で為替レートが十分に動かない場合には、外国為替市場に介入して、通貨高や通貨安を直接的に誘導する場合があります。
政治情勢・有事・地政学リスクと為替レート
国政選挙で各党の勢力が分散化して安定した政権の樹立が望めない場合、重要な選挙での与党の敗北、政権の交代、国民投票での予想外の結果、連立政権からの一部の党の離脱、有力な指導者の引退や死亡・入院、重要な法案や予算の不成立、汚職や不祥事の発生、支持率の低下などによって政治情勢が不安定化すると、投資家の懸念を招き、通貨安要因となることがあります。
逆に国政選挙での有力な与党の誕生や与党の勝利、連立政権の樹立、重要な法案や予算の成立、支持率の上昇などによって政治情勢が安定化に向かうと通貨高要因となります。
また、戦争や地域紛争、小規模な軍事衝突、内戦、大規模なテロ行為の発生、外交的な対立、反政府運動、核やミサイルなどの開発、軍隊の派遣による威圧、国境紛争などの有事の発生時や地政学リスクの高まりによる政治情勢の不安定化は深刻な通貨安を招く恐れがあります。
市場要因(マーケット要因)と為替レートの関係
市場(マーケット)に関する動きと為替レートの関係についてです。
投機的な動きと為替レート
投資家による投機的な動きが為替レートに影響を与えることがあります。投資家が何らかの意図を持って特定の通貨に大量の売りを浴びせることによって(または大量に買うことによって)価格変動を発生させようとすることがあるのです。
また、投資家の動きが通貨危機へと発展するような場合があります。外貨準備の減少などによって対外的な債務の支払いが危ぶまれている国の通貨などに大量の売りを浴びせることによって通貨価値を大きく下落させ、その後買い戻すこと等によって投資家が利益を得ようとすることがあるのです。通貨価値の大きな下落がその国の経済や社会に大きな混乱をもたらすことがあります。
投資家心理と為替レート
投資家心理は為替相場に大きな影響を与えます。企業業績などへの期待感から投資家が強気で、リスク選好的(リスクオン)な投資行動をする場合には、リスクが高い通貨でも買われることになり、通貨価値が上昇しやすくなります。
一方で、景気などへの警戒感、悪いイベントの発生などによって投資家が弱気になり、リスク回避的(リスクオフ)な投資行動をする場合には、安全通貨と呼ばれる米ドル、日本円、スイスフランなどが買われやすくなります。
テクニカル要因と為替レート
チャート上の為替レートの変動などから今後の為替相場を予想するテクニカル分析が為替レートに影響を及ぼすことがあります。為替市場では、市場参加者がテクニカル分析を他の金融市場よりも強く意識しているといわれることがあり、テクニカル要因が相場形成に影響を及ぼしやすいとみられています。
例えば、チャート上の節目、直近の高値や安値の水準、きりが良い水準などは上値のめどや下値のめどとして機能することがあります。その他にもチャートの動きの特徴(トレンド)などが市場参加者に意識されることで本当にそのような動きとなることがあります。
投資資金の動きと為替レート
投資資金の動きは通貨の需要を通じて為替レートに影響を与えます。特定の国に対する直接投資・間接投資が活発化した場合には、その国の通貨が買われることになるため通貨価値が上昇します。
逆に特定の国に対する直接投資・間接投資の動きが鈍った場合や、投資資金の引き上げの動きが出た場合にはその国の通貨を売ることになるため通貨価値が下落します。
ある国の経済や社会に深刻な懸念が生じた場合には一斉に投資を引き上げる動きが発生することもあります。
株価と為替レート
株価の動きが為替レートに影響を与える場合があります。ある国の株価が上昇しているということはその国の株式に対して積極的な投資が行われているということになるため、通貨に対する需要が強まり、通貨高要因となることがあります。
逆にある国の株価が下落しているということはその国の株式から資金が引き上げられているということになるため、通貨に対する需要が弱まり通貨安要因となることがあります。
商品市況と為替レート
商品市況の動向と米ドルの動きは関係があるため、商品市況の動向は米ドルへの影響を通じて為替レートに影響を当たることがあります。
例えば、原油価格が上昇すると需要は減少しますが原油価格はドル建てのため、ドルに対する需要も減少することになり、ドル安要因となります。逆に原油価格が下落すると原油への需要が高まり、ドル高要因となります。ただし、明確な関係が見られない場合もあります。
原油などの商品市況の上昇は原油などの資源を産出する国の通貨(資源国通貨)の上昇要因となり、商品市況の下落は資源国通貨の下落要因となります。
まとめ
- 為替レートは、複数の要因が関係して変動していきます。為替相場の変動要因は、経済的な要因(ファンダメンタルズ要因)、政策・政治的な要因、市場要因(マーケット要因)に分けることができます。
- 為替変動要因として特に重要なものとして、景気、金利、物価、経常収支、金融政策、市場介入を挙げることができます。