コンタンゴ・バックワーデーションとは
記事作成日:2017年8月27日
最終更新日:2022年2月8日
コンタンゴとバックワーデーションについてです。コンタンゴやバックワーデーションとは、取引の満期がある原油などの先物取引で用いられる言葉です。満期が近い期近物と満期が遠い期先物の価格の状態が「期近物<期先物」となっているのがコンタンゴ、「期近物>期先物」となっているのがバックワーデーションです。コンタンゴやバックワーデーションは、原油などで先物価格とETF価格のかい離を引き起こす原因となる、限月乗換時の価格差(スプレッド)の状態について示す言葉です。
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コンタンゴ(contango)とは
コンタンゴ(contango)とは、取引の満期がある原油などの先物取引で用いられる言葉で、満期までの期間が短い限月の価格(期近物)よりも満期までの期間が長い限月の価格(期先物)の価格が高い状態のことをいい、順鞘(順ザヤ)の状態です。
例えば、X年3月限が90円、X年6月限が100円、X年9月限が110円というように、満期が先になるほど取引価格が高くなる状態です。
コンタンゴの状態は、早く満期が来る先物取引の価格は安く、後に満期が来る先物取引の価格は高いということですが、必ずしも原油や金などの先物取引の対象となっている商品の価格の上昇が見込まれているとは限りません。
コンタンゴが発生する理由・発生しやすい状況
コンタンゴが発生する理由・発生しやすい状況についてです。取引対象が現物の商品であることなどが影響しています。
現物商品の金利コストや保管コスト
先物取引の対象商品となっている原油などは現物商品・実物商品であるため、商品を購入するための資金調達コスト(金利コスト)や現物の保管コスト(倉庫代や保険料などのコスト)が必要となります。そのため、満期までの期間が短い期近物は金利コストや保管コストが少なく、満期までの期間が長い期先物は金利コストや保管コストが多くなります。
そのため、商品先物では、商品の価格上昇が見込まれていない場合であっても、コストが考慮され、期近物ほど安く、期先物ほど高い傾向があります。
原油や天然ガスと金属の保管コスト
なお保管コストは、安全上の配慮が必要となったり、かさばったり、劣化しやすかったりして安全に品質を保つため保管が大変な原油や天然ガス、ゴム、穀物などで高くなりがちです。一方で金属は密度が高く劣化しづらいため保管がしやすいことから、原油や天然ガスよりは保管コストが安くなる傾向があります。
投資家の思惑や時間的価値が原因となる場合も
必ずしも現物商品・実物商品の受け渡しが行われる場合に限らず、保管コストが発生しないような場合でも、限月がある取引でコンタンゴが発生する場合があります。
一般的に期近物は満期まで期間が短いため時間的価値が小さく、期先物は満期までの期間が長いため時間的価値が大きいため、時間的価値が考慮された場合には、期先物の価格が高くなる場合があります。
また、投資家の市場変動に対する思惑がコンタンゴを形成する場合があります。
コンタンゴの限月乗換は損失に
コンタンゴの状態では、期近が安く期先が高いため(例:X年3月限が90円、6月限が100円)、限月の乗り換え(ロールオーバー)を行うと安く売って高く買うことになり、価格差の分だけ損(損失)がでます。
例えば、X年3月限90円を10枚持っていたとすると、売買コストを無視すると90×10=900円で売却できます。そして、900円で6限月100円を購入すると900÷100=9枚買うことになります。
この場合には、限月の乗り換え(ロールオーバー)で先物の保有枚数が10枚から9枚に減少してしまうのです。コンタンゴによって限月乗換コスト(ロールオーバーコスト)が発生することになり、限月乗換で損が出ることをマイナスのロールイールド、負のロールイールド、ネガティブロ―ルイールド等とも呼びます。
コンタンゴは先物価格とETFの乖離の原因に
原油先物価格を時系列に沿ってグラフ化する場合には、原油先物が次々と満期が来るため、満期までの期間が一番短い期近物の価格をつないでいくことになります。満期日では、限月の乗り換えが発生するため、コンタンゴの状態では見かけ上、原油先物価格が値上がりするようになります。
一方で実際の投資では、コンタンゴの状態で限月の乗り換えを行うと、ロールオーバーコスト(限月の乗換コスト)が発生する分、持ち高が減少します。持ち高が減少するとその分、先物価格の変化(上昇・下落)に対する持ち高の変化(上昇・下落)が小さくなります。そのため、先物価格と実際の投資(ETF)の乖離を生んでしまうことがあります。
バックワーデーション(backwardation)とは
バックワーデーション(backwardation)とは、取引の満期がある先物取引で用いられる言葉で、満期までの期間が短い限月の価格(期近物)よりも満期までの期間が長い限月の価格(期先物)の価格が安い状態のことをいい、逆鞘(逆ザヤ)とも呼ばれます。
例えば、X年3月限が100円、X年6月限が90円、X年9月限が80円というように、満期が先になるほど取引価格が高くなる状態です。
バックワーデーションの状態は、早く満期が来る先物取引ほど価値が高いということになりますが、満期が早く来るということは早く商品の価値(あるいは実物・現物)を手に入れるということになります。つまり、早く手に入るほど価値が高いような状態の場合にはバックワーデーションとなることがあります。
バックワーデーションが発生する理由・発生しやすい状況
大規模な自然災害や事故、異常気象、交易網の寸断、地域紛争・内戦・テロの発生など需給の逼迫が懸念される状態になると、直近の現物価格が上昇します。
事態の沈静化や代替品の供給など災害など供給減少への対応が進めば、いずれ需給は緩むため、将来の現物価格は落ち着くだろうと予想されます。そのため、期近の限月の取引ほど高く、期先の限月の取引ほど安いという状態が発生します。
つまり、バックワーデーションは、直近ほど価格が高くその後価格が下がるだろうというようなものを取り扱う先物取引で発生しやすい状態といえます。
満期に現物を提供する側(売り手)は、取引開始から満期日までの間に現物の購入のための資金調達コスト(金利コスト)や現物の保管コストを負担することになります。金利コストや保管コストが少ない場合は、バックワーデーションになりやすいと考えらえます。
なお現物を保有していることによりメリットをコンビニエンス・イールドといいます。コンビニエンス・イールドが大きいほど、バックワーデーションとなりやすくなります。
バックワーデーションの限月乗換は利益に
バックワーデーションが発生している場合は、期近が高く期先が安いため(例:X年3月限が100円、6月限が90円)、限月の乗り換え(ロールオーバー)を行うと高く売って安く買うことになり、価格差の分だけ得をすること(利益)になります。
例えば、X年3月限100円を9枚持っていたとすると、売買コストを無視すると100×9=900円で売却できます。そして、900円で6限月90円を購入すると900÷90=10枚買うことができます。
限月の乗り換え(ロールオーバー)で先物の保有数が9枚から10枚に増加することになります。バックワーデーションが発生している場合に限月の乗り換えで利益が出る状態のことを正(プラス)のロールイールドと呼んだりします。
バックワーデーションはコンタンゴと同様に先物価格とETFの乖離の原因に
原油先物価格を時系列に沿ってグラフ化する場合には、原油先物が次々と満期が来るため、満期までの期間が一番短い期近物の価格をつないでいくことになります。満期日では、限月の乗り換えが発生するため、バックワーデーションの状態では見かけ上、原油先物価格が値下がりしているようにみえます。
ETFなどの実際の投資では、バックワーデーションの状態で限月の乗り換え(ロールオーバー)を行うと、期近物と期先物の先物価格の差の分だけ利益が生じ、持ち高が増加することになります。
持ち高が増加するとその分、先物価格の変化(上昇・下落)に対する持ち高の変化(上昇・下落)が大きくなるため、先物価格と実際の投資(ETF)の乖離を生んでしまうことがあります。
これはコンタンゴと同様の現象ですが、コンタンゴと方向が逆になります。ただし、バックワーデーションの状況は持続しづらいため、コンタンゴの影響の方が大きくなる場合が多いです。
まとめ
- コンタンゴは、満期がある先物取引において、満期までの期間が短い限月の価格(期近物)よりも満期までの期間が長い限月の価格(期先物)の価格が高い状態をいい、限月乗換を行うと価格分だけ不利になります。
- バックワーデーションは、満期までの期間が短い限月の価格(期近物)よりも満期までの期間が長い限月の価格(期先物)の価格が安い状態をいい、限月乗換を行うと価格分だけ有利になります。