取引事例比較法とは取引事例から不動産価格を求める方法
記事作成日:2017年8月12日
最終更新日:2022年1月23日
取引事例比較法とは、取引市場における過去の取引事例を基に対象となる不動産価格を求める方法です。市場での実際の取引価格を基にしているため、取引の実勢が反映されやすく、理解しやすいことが特徴です。
取引事例比較法は、国土交通省「不動産鑑定評価基準」において定められた不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な3つの手法(原価法、取引事例比較法、収益還元法)のうちの1つです。
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取引事例比較法の考え方は不動産取引で一般的に用いられる
取引事例比較法は不動産鑑定評価における方法ですが、取引事例比較法の考え方は実際の不動産取引で一般的に用いられています。例えば、新築・中古を問わず、住宅を購入する場合には、周辺地域での過去の売買事例が参考になります。
新築であれば、新築で売り出されている不動産の価格の情報を不動産の広告などから集めて、購入判断の材料とすることが一般的です。中古であれば、周辺地域での過去の売買事例(価格、面積、住所など)を不動産業者から取得して、購入判断の材料とします。
つまり、過去の売買事例での価格はどうだったかということから、不動産価格を求めているわけですが、これは取引事例比較法の考え方そのものです。
不動産鑑定評価においては厳密な判断の基で鑑定価格を求めています。一方、個人の住宅購入では感覚的な部分が大きくなりますが、過去の取引事例から、取引しようとする不動産の妥当な価格を判断しているのです。
過去の取引事例は、一応不動産取引市場に行われた取引であるため、事例を集めるほどより妥当な不動産価格を推測しやすくなりますし、価格の求め方もシンプルで分かりやすいため、不動産取引では取引事例比較法の考え方は一般的に使われています。
取引事例比較法の流れ
不動産鑑定評価基準における取引事例比較法の流れについて説明しています。取引事例比較法では複数の取引事例を基に、対象となる不動産の価格を求めることになります。
しかし、取引事例は対象不動産とは取引における事情、取引の時点、存在する地域、不動産の個別的な特性が異なっています。そのため、取引事例に適切な補正を加えて、対象不動産の価格を求めていくことになります。具体的には次のような流れで対象不動産の価格を求めます。
- 取引事例の選択:比較対象とする取引事例を選びます。
- 取引事例の事情補正:取引に特殊な事情がある場合は補正します
- 取引事例の時点修正:取引時点の違いを地価の推移などを基に修正します
- 取引事例の標準化補正:取引事例の個別的要因を補正し標準化します
- 取引事例と対象不動産の地域要因の比較:取引事例と対象不動産の地域が異なる場合は調整します
- 対象不動産の個別的要因の比較:対象不動産の個別的要因を踏まえ価格を補正します
取引事例の事情補正
取引事例の事情補正とは、取引事例に含まれる特殊な事情を補正する手続きです。
取引に特殊な事情が含まれる場合は補正する必要があります。取引価格が特殊な事情によって高くなっている場合には減額する補正が必要になります。例えば、極端な供給不足によって価格が上昇しているような場合、買い手の情報不足により高い価格で買い手が買ってしまったような場合が挙げられます。
逆に取引価格が特殊な事情によって安くなっている場合には増額する補正が必要になります。例えば、転勤などで急いで売却をしなければいけなかった場合に、投げ売りをして売り急いだような場合、売り手の情報不足により安い価格で売り手が売ってしまったような場合が挙げられます。
取引事例の時点修正
取引事例の時点修正とは、取引事例が過去に行われていて、時点が対象不動産の価格を求める時点と違っている場合に、価格を修正する手続きです。
取引事例の時点と対象不動産の価格を求める時点の地価、市場価格の動向などを踏まえて時点修正を行います。
取引事例の標準化補正
取引事例の標準化補正とは、取引事例の個別的要因を補正して、標準的な不動産の価格を求める手続きです。
取引事例と対象不動産の地域要因の比較
取引事例が対象不動産の近くにない場合には、同一需給圏内の類似する地域から取引事例が選ばれます。そのため、不動産が存在する地域が異なってくるため、地域要因を比較して価格を調整します。
対象不動産の個別的要因の比較
対象不動産が存在する地域の標準的な不動産と対象不動産の個別的要因を比較して、価格を補正します。
地域要因とは
地域要因とは、不動産の価格に影響を与える地域的な特性のことをいいますが、国土交通省「不動産鑑定評価基準」において宅地地域の住宅地域については次の要因が例示されています。
- 日照、温度、湿度、風向等の気象の状態
- 街路の幅員、構造等の状態
- 都心との距離及び交通施設の状態
- 商業施設の配置の状態
- 上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態
- 情報通信基盤の整備の状態
- 公共施設、公益的施設等の配置の状態
- 汚水処理場等の嫌悪施設等の有無
- 洪水、地すべり等の災害の発生の危険性
- 騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度
- 各画地の面積、配置及び利用の状態
- 住宅、生垣、街路修景等の街並みの状態
- 眺望、景観等の自然的環境の良否
- 土地利用に関する計画及び規制の状態
(出典)国土交通省「不動産鑑定評価基準」より項目番号を除いて引用
個別的要因とは
個別的要因とは、不動産価格に影響を与える不動産(土地、建物)の個別的な要因のことですが、国土交通省「不動産鑑定評価基準」では、土地の住宅地についてでは次のようなものが例示されています。
- 地勢、地質、地盤等
- 日照、通風及び乾湿
- 間口、奥行、地積、形状等
- 高低、角地その他の接面街路との関係
- 接面街路の幅員、構造等の状態
- 接面街路の系統及び連続性
- 交通施設との距離
- 商業施設との接近の程度
- 公共施設、公益的施設等との接近の程度
- 汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度
- 隣接不動産等周囲の状態
- 上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易
- 情報通信基盤の利用の難易
- 埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
- 土壌汚染の有無及びその状態
- 公法上及び私法上の規制、制約等
(出典)国土交通省「不動産鑑定評価基準」より項目番号を除いて引用
また、同様に建物については次のように例示されています。
- 建築(新築、増改築等又は移転)の年次
- 面積、高さ、構造、材質等
- 設計、設備等の機能性
- 施工の質と量
- 耐震性、耐火性等建物の性能
- 持管理の状態
- 有害な物質の使用の有無及びその状態
- 建物とその環境との適合の状態
- 公法上及び私法上の規制、制約等
(出典)国土交通省「不動産鑑定評価基準」より項目番号を除いて引用
まとめ
- 取引事例比較法とは、取引市場における過去の取引事例を基に対象となる不動産価格を求める方法です。
- 取引事例比較法は、国土交通省「不動産鑑定評価基準」において定められた不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な3つの手法(原価法、取引事例比較法、収益還元法)のうちの1つです。