人口オーナスとは(人口税とは)・少子高齢化と人口減少の影響
記事作成日:2018年7月26日
総人口における現役世代の比率が高まることによって経済に恩恵がある人口ボーナスという言葉に対して、日本では人口オーナスという言葉が用いられることがあります。人口オーナスとは、総人口における現役世代(生産年齢人口:15~64歳)の比率が低下することによって生じる経済に対する負担や重荷のことを意味します。海外では人口税という表現が用いられることがあります。
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人口オーナスとは(人口税とは)
人口オーナス(人口税)とは、人口ボーナスに対比して用いられる言葉で、総人口に対する生産年齢人口(15~64歳)の割合が持続的に低下することによって生じる経済や社会への負担や重荷のことを意味します。
人口オーナスは、基本的に生産年齢人口の割合が低下している場合を指しますが、単に従属人口(14歳以下と65歳以上)の割合が相対的に高い状態を指すことや、人口が減少している状態を指すこともあります。
日本の人口オーナス期と人口ボーナス期
(出典)総務省統計局「人口推計」を基にfromportal.comの担当者が作成
人口ボーナスの時期を生産年齢人口の比率が持続的に上昇する時期、人口オーナスの時期を生産年齢人口の比率が持続的に低下する時期と定義すると、戦後の日本の人口ボーナス期は厳密には1960年代後半まで、人口オーナス期は1990年代前半以降となります。ただし、1990年代前半までを人口ボーナス期とする考え方が日本では一般的です。
戦後の日本の生産年齢人口の比率は、総務省統計局「人口推計」によれば、1960年代後半にかけて上昇した後、1980年頃にかけて低下し、1990年代前半にかけて再び上昇します。日本の生産年齢人口のピークは1992年で、その後は低下が続いています。
人口オーナスという言葉は日本で用いられる
人口オーナスは、少子高齢化や人口減少の経済や社会への影響が懸念される日本でたまに用いられる言葉で、世界的には今のところ一般的な言葉ではないように思われます。
人口オーナスのオーナス(onus)とは、責任や義務、重荷、負担といった意味があり、人口ボーナスとの対比で語呂・語感が良いためか、日本では人口減少や少子高齢化を論じる際に人口オーナスという言葉が用いられることがあります。
参考:人口ボーナスとは
人口ボーナスは、生産年齢人口(15~64歳)の割合が高まることで労働力の供給が増えるため生産余力が増加すること、生産年齢人口の割合が高まることで労働者の総所得が増えて家計の消費が活発化すること、従属人口(14歳以下と65歳以上)の割合が低くなることで医療費や年金などの社会保障費用の負担が少なくて済むことなどから、人口構成の変化によって経済的な恩恵が受けられることを意味します。
人口ボーナスは基本的に生産年齢人口の割合が高くなることを指しますが、従属人口に対して生産年齢人口が高い状態のことを意味したり、単に人口が増加している状態を指したりする場合もあります。
海外では「demographic dividend」と「demographic tax」
海外では人口オーナスについて「population onus」や「demographic onus」という表現よりも「demographic tax」(人口税)という表現が多く用いられています。
なお、人口ボーナスは「population bonus」や「demographic bonus」と用いられていそうな感じがしますが、海外では「demographic dividend」という言葉で用いられることが多いです。demographicは人口統計的な、人口動態のというような意味があり、dividendは配当という意味があります。「demographic dividend」で人口構成による配当=人口ボーナスとなります。
人口オーナスによる影響(少子高齢化・人口減少の影響)
少子高齢化や人口減少による人口オーナス(人口税)によって、生産能力の低下、労働者の所得の減少、社会保障負担の増大、生産性の低下などが生じて、経済成長(GDP)の負担となったり、社会活動への影響が生じたりする可能性があります。人口構成の変化は経済や社会に大きな影響を与える恐れがあるのです。
労働供給の減少による生産能力の低下
総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)の割合が低くなることで労働力の供給が減るために経済的な意味で生産能力が低下します。
機械化・IT化(産業用ロボット、AIなど)によって労働力の代替が行われるか、女性や高齢者の労働参加が進まない限り、労働力は持続的に低下していきます。
少子高齢化や人口減少の影響により働き手が足りなくなり最初は人手不足という形で一見労働需給が引き締まり良いようにみえる状態を生み出します。
しかし、中長期的には労働力の供給が減っていくため、生産能力が低下し、経済成長・GDP(国内総生産)にマイナスの影響を与えます。
労働者の減少による労働者の総所得の減少
総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)の割合が低くなると、労働者の総所得(=労働者数×労働者1人当たりの所得)に減少圧力がかかります。
労働者1人当たりの所得(給与)が増えていかないと、働いている人の総所得が増えていかないため、家計の消費が停滞し、経済全体に悪影響を及ぼす可能性が高まります。
少子高齢化や人口減少が顕在化する最初の段階では、働いている人の消費が減っても、高齢者がそれまで貯めてきた貯蓄を取り崩して消費をするために、一見経済全体で消費がそれほど減らないようなこともあります。
しかし、高齢者の消費は年金によっても支えられているため、高齢者に対する働き手の割合が低下する中ではいずれ高齢者の消費が経済を支え切れなくなる可能性があります。
高齢者の増加による社会保障費用の増加
少子高齢化が進展し、生産年齢人口(15~64歳)に対する従属人口(14歳以下と65歳以上)のうち高齢者(65歳以上)の割合が高まると、高齢者をより少ない現役世代で支えることになります。
高齢者1人に対して現役世代5人で支える場合には現役世代1人当たりの負担は高齢者0.20人分ですが、高齢者1人に対して現役世代3人ならば現役世代1人当たりの負担は高齢者0.33人分、高齢者1人に対して現役世代2人ならば現役世代1人当たりの負担は高齢者0.50人分となります。
高齢者は働くことが難しく自ら労働収入を得ることが難しいため、社会全体で生活を支えていくことが必要になります。また、高齢者は現役世代よりも健康面から医療や介護の必要性も高まります。
そのため、年金・医療・介護の社会保障費用の負担が増大し、現役世代の手取り収入(額面収入-税金・社会保険料)を減少させ、経済成長の重荷となります。
経済・社会全体の生産性の低下
社会全体における高齢者の比率が高まることで、社会的なインフラや消費活動はより高齢者に配慮したものとなることが求められます。
例えば移動に関してはバリアフリーなどが思い浮かぶと思いますが、高齢者が増えることで経済・社会活動に全般的な影響が生じます。
高齢者の人は現役世代の人と同じように移動できない場合があるため、介助など特別な補助が必要になる場合や、動作などのスピードに配慮する必要があります。つまり、より時間をかけて、丁寧に対応しなければいけません。
また、高齢者に対する商品やサービスの説明はより丁寧に時間をかけて行うことが求められる場合があります。金融商品の高齢者に対する説明の事例が有名ですが、判断能力や意思を慎重に確認しながら、商品やサービスの販売を行わなければいけなくなります。
高齢者に優しい経済・社会に変わることが求められる中で、今までのような若い人、現役の人を相手にしたビジネスモデルが通じなくなり、より時間をかけた丁寧な対応をするようになることで、生産性などに影響が出る可能性があります。
また、人口減少によって、過疎化も深刻化するとみられ、コンパクトシティなど地方行政のあり方も見直しが迫られるとみられます。そのほかにも空き家問題、後継者不足など様々な経済・社会問題が生じるとみられます。
まとめ
- 人口オーナスとは、総人口における現役世代(15~64歳)の比率が持続的に低下することによって生じる経済への負担のことを意味し、日本では1990年代前半以降が該当します。
- 少子高齢化や人口減少によって、労働力の減少、労働者の所得の減少、社会保障負担の増大、生産性の低下などが生じる恐れがあり、経済成長の重荷となる可能性があります。