不動産の高い売却査定価格を示す業者に注意
記事作成日:2016年3月20日
不動産を売却しようとする場合には、不動産業者に売り出し価格を設定するための参考として査定価格の算出を依頼します。業者によって査定価格は異なっていますが、極端に高い売却の査定価格を提示する不動産業者には注意しなければいけません。実際には売れないであろう価格を示して、媒介契約を結ぼうとしている可能性があるからです。
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不動産の査定価格はどうやって出されるか
不動産の鑑定評価方法と査定価格
日本では他人から報酬をもらって不動産の鑑定評価を行うことができるのは不動産鑑定士だけとなっています。一方で、不動産業者は不動産の売買にあたって査定価格として売却の際の参考価格を無償で不動産の売却希望者に提示しています。
不動産業者が行う不動産販売価格の査定は、不動産鑑定士が行う鑑定とは異なりますが、不動産鑑定士が行う鑑定評価と大きく異なったものにはならないと考えられます。不動産鑑定士の鑑定評価の方法と査定価格を算出する方法が大きく異なっていれば、不動産業者の査定価格が実勢から外れてしまい、不適切なものになってしまうからです。
不動産の鑑定評価の方法
日本においては、国土交通省による「不動産鑑定評価基準」が不動産評価の重要な基準になっています。不動産鑑定士は不動産鑑定評価基準に基づいて不動産の鑑定評価を行います。
不動産鑑定評価基準では、不動産売買における不動産の価格を求める鑑定評価の方法について、不動産をその時点で再調達するとした場合の原価に使用による損傷などの減価を考慮して算出する「原価法」、不動産取引市場での取引事例を補正して算出する「取引事例比較法」、不動産が将来生み出すとみられる賃料などによる純収益を現在の価値に割り引くことによって求める「収益還元法」の3つの手法があるとしています。
不動産業者の査定価格
仲介業者による不動産の査定は、不動産鑑定士が実施する鑑定評価とは異なりますが、通常、原価法、取引事例比較法、収益還元法のいずれか、あるいはいくつかを組み合わせた考え方に基づいて行われることになると考えられます。
居住用不動産の査定
個人の通常の居住用不動産では、実務上は不動産仲介業者は周辺地域における取引事例を示しながら価格の妥当性を説明していることが多く、「取引事例比較法」の考え方を中心に査定価格を算出しているとみられます。
最近の事例ではこのくらいの価格で売れているから、この不動産ならこれくらいで売れるだろう、というような考え方です。
賃貸用不動産の査定
賃貸用不動産(投資用不動産)では家賃収入の見込みと価格の関係、利回りを示しながら価格の妥当性を説明することになるため「収益還元法」や「取引事例比較法」の考え方を中心に査定価格を算出していると考えられます。
家賃収入がこれくらい期待できるから、利回りを何%とするとこのくらいの価格、というような考え方です。
同じような方法なら査定価格はあまり変わらないはず
同じような考え方で不動産を評価することになるため、個別的な要素などをどう評価するかによって多少査定価格のブレはあるにしても、通常は不動産業者の間で極端に査定価格が異なるようなことはあまりないはずなのです。
しかし、実際には不動産業者が査定価格として示す、売り出し価格の参考価格は不動産業者によって大きく異なっています。
なぜ不動産の査定価格が業者によって違うのか
不動産の売却をする場合には、売り出すときの価格を決めるため不動産業者から査定価格のアドバイスを受けます。しかし、この売却査定価格は不動産業者によって大きく異なっていることがあります。単なる誤差や考え方の違いによる場合もあるのですが、不動産業者が媒介契約を得たいために高めの査定価格を提示している場合があります。
不動産の売却を依頼する時は媒介契約を結ぶ
不動産の売却を不動産業者に依頼する場合には、媒介契約を結ぶことになります。不動産を売る仲介をお願いしますという契約です。不動産の仲介には、専属専任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約の3種類があります。
不動産業者は不動産仲介料が収入源
不動産業者は通常自社だけが独占的に仲介できるように専属専任媒介契約か専任媒介契約を好む傾向があります。自社が仲介して売買契約を成立させることができれば、売主からは不動産仲介料を得ることができるからです。不動産業者は不動産売買では不動産仲介料が収入源になので、媒介契約を結ぶ必要があるのです。
高い査定価格を示して媒介契約を結びたい
不動産業者が高い査定価格を提示する最も大きな理由は、売主から媒介契約を得るためです。一部には、高額で買いたいと考えている買主の当てがある、他社が気付いていない不動産の価値があるといったような場合もあります。
しかし、多くの場合は、売主が高い査定価格を示した業者にお願いすれば高く売ってくれるかもしれないと考えてしまうことから、高い査定価格を示すということが背景です。不動産の売主はできるだけ高く売りたいと考えています。安く売れるよりは高く売れた方が良いのです。
高い売り出し価格で売り出すとどうなるのか
不動産業者が示した高い査定価格を参考に相場よりも高めの売り出し価格を設定して、売却活動を始めた場合はどうなるのでしょうか?実際に高い価格で不動産が売れれば良いのですが、査定価格はあくまで査定価格でその値段で売れることが保証されている訳ではありません。
買主は相場価格をある程度知っている
不動産を買いたいと希望する買主は、通常ある程度の下調べをします。全く不動産の売買相場を把握しないまま、希望する条件の物件を売主の言い値でそのまま買うということはほとんどありません。
インターネットによって周辺の物件の売り出し価格を調べることができるほか、不動産業者から周辺物件で実際に取引が成立した売買価格をを把握しているため、不動産業者から取引価格の実勢の情報を得ることができます。
買主は安く買えるなら安く買えた方がいいですし、予算にも制約があるはずなので、周辺の相場と比較してあまり極端に高い物件は敬遠されます。
相場より高い物件はなかなか売れない
売買市場での相場価格より高く設定された売却希望価格ではなかなか買い手が尽きません。もちろん、ごくまれにどうしてもその物件が気に入ったので高くても買いたいという人や、急いで引っ越したいので価格には多少目をつぶっても良いという人がいる場合もあり、相場より高くても制約に至る場合はあります。
しかし、通常の取引市場の場合には相場から高く設定された価格では取引はなかなか成立しません。そのため、物件が売れないまま時間が過ぎていくことになります。
不動産業者は時期を見て値下げを提案
相場よりも高い価格で売却活動を行うと、なかなか取引成立に至らず、時間が経過していくことになります。物件の内覧がある程度入っていれば、売主も売れるかもしれないという期待を抱きますが、内覧も少なく、時間が経過している場合には、売主の中では価格が高すぎて売れないのではないか?という不安が高まることになります。ある程度売却したい時期が決まっている場合は、なかなか売れないことで焦りも出てきます。
媒介契約を結んでいる不動産業者はタイミングを計って値下げの提案をすることになります。不動産業者は高い価格では売れない事を最初から分かっていて、売れればラッキーと思っていても、売れないだろうなとも思っています。売却活動を開始してから時間が経過していれば、売主も高い価格のままでは売れないかもしれないと考え始めているので、値下げの提案を受け入れやすくなります。
不動産が売れない状態に置かれてしまうことを「干す」という場合もあります。高めの売り出し価格で売れない状態を維持しながら売主だけでなく買主も自社で媒介する両手契約を狙う場合や、売れない状態を続けて売主を焦らせたうえで安い価格での買取を狙う場合もあります。
相場に売り出し価格が近づくと成約しやすい
相場より高い売り出し価格で売却活動を行っていてもなかなか取引が成立しないため、不動産業者は値下げの提案をします。一気に大幅に下げる場合もあれば、徐々に下げていく場合もありますが、相場価格に近づいていくと内覧が増え、取引が成立しやすくなっていきます。
高い査定価格を提示されたけれども、実際に売買契約が成立したのは相場価格とほとんど変わらなかったというような場合もあります。
高い査定価格の業者と契約するメリットとデメリット
高い査定価格の業者と契約するデメリット
高い査定価格を提示した不動産業者と媒介契約、特に専属専任媒介契約や専任媒介契約を結んでしまうことの最も大きなデメリットは売却までに時間がかかってしまうということです。
また、自社で買主をあてがう両手取引を狙われてしまうと、他に高く買ってくれる可能性がある買主を遠ざけてしまい、結果として安く売ってしまう可能性もあります。
さらに、売却活動が上手くいかず心が折れてしまい、安い買取業者の買取価格で売却してしまい、安く売ってしまう可能性もあります。
高い査定価格の業者と契約するメリット
もちろん、高い査定価格を参考に売り出し価格を設定して、相場よりも高く売れる場合もあります。高く売れれば売主にとっては望ましい結果になりますが、市場の状況や運によっても左右され、実際に試してみないと分からない部分があります。
媒介契約を結ぶ不動産業者の選び方
高い査定価格なら良いと言うわけではない
不動産を売却しようとする場合には、複数の不動産業者に査定価格の見積もりを依頼することは重要です。しかし、単に高い査定価格を提示した業者を選べばいいかと言えばそれは違います。
もし、不動産をすぐに売却したくて買取価格、下取り価格の査定を依頼するのであれば、査定価格で売却することになるので、高い価格を提示した業者に売却すればいいでしょう。しかし、市場で買主を探す場合には、査定価格はあくまで参考にしかならないのです。高い査定価格を示す業者は、本当にその価格で売る気があるのか、媒介契約をとりあえず結びたいからなのかは分かりません。
査定価格は相場からかけ離れていないか
高い査定価格を提示された場合、相場から大きくかけ離れていないか注意する必要があります。相場とは、周辺の物件の売り出し価格ではなく、成約価格から考えられる妥当な額です。
想定される相場価格から1割程度のズレであれば相場の範囲内と考えても良いかもしれませんが、2割以上ずれている場合には売れない可能性がある高い査定価格を提示されているのではないかと慎重になった方が良いかもしれません。
販売期間に余裕があるなら高い価格で挑戦も
もちろん売主としては高い価格で売却することができれば一番良いので、販売活動に充てることができる期間が長い場合は高い売り出し価格で挑戦するのもありだと思います。少なくとも3か月よりも長い期間販売活動ができる場合には高めの売却活動で試してみるのもありでしょう。ただし長い間売れていないということで買主が悪い印象を持つ場合もあります。
しかし、販売期間にあまりゆとりがない場合、3カ月程度で決めたいという場合には市場の相場よりも高い価格で売り出すことはリスクを伴います。
販売開始後の値下げ提案に注意する
高い査定価格の業者を選んで販売活動を行ったけれども、物件の問い合わせや内覧が少なく、媒介契約を結んでいる不動産業者が値下げの提案を行ってきた場合には、理由を問いただすことが重要です。誠意を持った回答が得られないような場合、はぐらかされているような場合には、別の不動産業者にお願いし直すことも考えた方が良いでしょう。
成約実績と成約価格を考慮する
媒介契約を結ぶ不動産業者を選ぶ場合には、不動産業者の成約実績や成約価格、売り出しから取引成立までの期間を聞いてみるのも良いでしょう。可能であれば売り出し価格と成約価格の関係を聞いてみるのも良いでしょう。
大幅な値下げを多く実施している場合、取引成立まで時間がかかっている場合(3か月以上)、近隣での成約実績が少ない場合には要注意だと考えられます。
査定価格だけでなく担当者との相性も
不動産の媒介業者を選ぶ場合には、査定価格に目が行きがちですが、担当者の熱意や担当者との相性も重要です。大手の不動産業者であっても高い査定価格を提示して媒介契約を狙おうとする場合もありますし、近所の規模が小さい不動産業者だから信頼できないと言わけでもありません。
担当者がどれだけ販売活動を熱心に行ってくれるか、担当者は話しやすい人か、自分の話を聞いてくれる人かといった相性も重要です。
まとめ
- 不動産の売却の媒介契約を結ぶ際に、複数の業者に査定価格の算出を依頼する場合があります。高い査定価格を提示した不動産業者と媒介契約を結びたくなりますが、必ずしも高い査定価格を提示した業者を選べばよいというわけではありません。
- なぜならば、媒介契約を結びたいために、スムーズに売れる可能性が低い相場よりも高い査定価格を示している可能性があるからです。