金利(債券価格)の変動要因
記事作成日:2017年8月12日
最終更新日:2022年3月11日
金利(債券利回り)や債券価格の変動要因についてです。金利や債券価格の変動要因には、潜在成長率、景気動向、物価動向、インフレ期待、為替レート、原油価格動向、債券需要、金融政策、海外金利動向、株価動向、投資家心理、財政政策、発行体の信用動向などが挙げられます。各要因の金利や債券価格に対する影響についてみていきます。
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金利や債券価格の変動要因と影響
金利や債券価格の変動要因と影響についてまとめた表は次のようになります。
変動要因 | 金利(利回り) | 債券価格 | ||
---|---|---|---|---|
経済 要因 | 潜在成長率 | 上昇 | ↑上昇 | ↓下落 |
低下 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
経済成長率 | 上昇 | ↑上昇 | ↓下落 | |
低下 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
景気 | 回復 | ↑上昇 | ↓下落 | |
後退 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
物価 要因 | 物価 | 上昇 | ↑上昇 | ↓下落 |
下落 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
インフレ期待 | 強い | ↑上昇 | ↓下落 | |
弱い | ↓低下 | ↑上昇 | ||
為替 | 円安 | ↑上昇 | ↓下落 | |
円高 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
商品市況 | 上昇 | ↑上昇 | ↓下落 | |
下落 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
他の 要因 | 債券需要 | 弱い | ↑上昇 | ↓下落 |
強い | ↓低下 | ↑上昇 | ||
金融政策 | 引き締め | ↑上昇 | ↓下落 | |
緩和 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
海外金利 | 上昇 | ↑上昇 | ↓下落 | |
低下 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
株価 | 上昇 | ↑上昇 | ↓下落 | |
下落 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
投資家心理 | リスク選好 | ↑上昇 | ↓下落 | |
リスク回避 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
財政政策 | 積極財政 | ↑上昇 | ↓下落 | |
緊縮財政 | ↓低下 | ↑上昇 | ||
発行体の信用 | 低い | ↑上昇 | ↓下落 | |
高い | ↓低下 | ↑上昇 |
金利に影響を与えるのは大きく分けると経済、物価、市場等の要因の3つ
「名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+リスクプレミアム」の関係があります。
名目金利の水準を考える場合には、期待実質経済成長率(≒潜在成長率とみなす)と期待物価上昇率(≒物価上昇率とみなす)が特に重要になります。また、リスクプレミアムには金融政策や需給などの市場要因などその他の要因、理論式通りにならない要因が影響すると考えることにします。
そのため、金利の変動要因については、経済成長率に関する要因、物価に関する要因、リスクプレミアムに関する要因(市場等に関する要因)の大きく3つに分けて考えることにします。
- 潜在成長率
- 経済成長率
- 景気動向
潜在成長率
潜在成長率は経済成長率の水準を左右するため、金利水準を考える上では重要な要因となります。
潜在成長率を左右する要因としては、人口や労働参加率、設備投資動向、技術革新、生産性等が挙げられますが、潜在成長率が上昇すれば金利は上昇、債券価格は下落する傾向がありますが、長期的な均衡水準を考える上で重要になるため、短期的な動きを理解するためには向かないことがあります。
経済成長率
経済成長率は金利の重要な変動要因となります。実際に発表される経済成長率が高まれば金利の上昇要因、債券価格の下落要因となり、経済成長率が低下すれば金利の低下要因、債券価格の上昇要因となります。「名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+リスクプレミアム」の理論式が背景にあります。
逆に経済成長率が低下すれば金利の低下要因、債券価格の上昇要因となります。
景気動向
景気動向は金利の重要な変動要因となります。経済指標や経済に関するニュースなどで景気動向を判断します。景気が回復する局面では、金利が上昇し、債券価格が下落します。
景気回復局面では投資案件の収支が改善し、融資を受ける金利が上昇しても、設備投資の元をとれる可能性が高まるため、資金需要が高まることが背景です。また、景気が回復する局面では物価も上昇しやすくなるほか、金融政策も緩和から引き締め方向に向かうことも金利上昇要因として影響します。
逆に景気が後退する局面では、設備投資意欲が低下し、資金需要が低迷するため、金利が低下し、債券価格が上昇します。
物価に関する要因
物価に関する金利(債券価格)の変動要因には次のようなものがあります。
- 物価
- インフレ期待
- 為替レート
- 商品市況(原油価格など資源価格)
物価
物価動向は金利(債券価格)の重要な変動要因となります。「名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+リスクプレミアム」の期待物価上昇率は、実際の物価動向の影響を強く受けるためです。
実際に物価が上昇すると、将来のインフレ率も高まるだろうという連想が働くため、金利上昇要因、債券価格下落要因となります。また、物価上昇率が高まると中央銀行の金融政策が緩和から引き締めに変化していくことも金利上昇要因となります。
逆に物価上昇率が低下すると、金利低下要因、債券価格上昇要因になります。
インフレ期待
実際の物価変動だけではなくインフレ期待も金利(債券価格)の重要な変動要因です。実際にはインフレ期待と実際の物価上昇率は相当程度連動しますが、別の概念です。インフレ期待の強まりは金利上昇要因、債券価格の下落要因になります。
「名目金利=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+リスクプレミアム」が背景にありますが、将来の物価が上昇すると予想される場合には、金利が上がるなら金利が低いうちに融資を受けて投資をしてしまおう、住宅を購入してしまおう、という動きが企業や個人で広がることが、資金需要の強まりを通じて金利上昇要因となります。
逆にインフレ期待が弱まると金利の低下要因、債券価格の上昇要因となります。
為替レート
為替レートの変動は輸入物価に影響を与えるため、金利(債券価格)の変動要因となります。自国通貨安(日本の場合は円安:円の購買力が落ちる)になると海外から輸入するモノやサービスの価格が上昇するため、輸入品の物価上昇につながります。輸入品の物価が上昇すると国内の物価も上昇するため、自国通貨安(円安)は金利の上昇要因、債券価格の下落要因になります。
逆に自国通貨高(日本の場合は円高:円の購買力が増す)になると海外から輸入するモノやサービスの価格が低下するため、輸入品の物価下落につながります。輸入物価の低下が国内物価の低下につながるため、自国通貨高(円高)は金利の低下要因、債券価格の上昇要因になります。
商品市況(原油価格など資源価格)
資源を輸入する国にとっては、商品市況の動向は物価を通じて金利(債券価格)に影響します。原油価格などの商品市況が上昇すれば、原油などの輸入物価の上昇を通じて、国内物価の上昇をもたらすため、金利の上昇要因、債券価格の下落要因になります。
逆に原油価格などの商品市況が下落すれば、輸入物価低下から国内物価低下となり、金利の低下要因、債券価格の上昇要因になります。
市場等に関する要因
市場等に関する金利(債券価格)の変動要因には次のようなものがあります。
- 債券需要
- 金融政策
- 海外金利
- 株価
- 投資家心理
- 財政政策
- 発行体の信用
債券需要
債券需要は金利(債券価格)の重要な変動要因になります。債券需要が強まる場合には、国債などの債券の買いの勢いが相対的に強まるため金利が低下し、債券価格が上昇します。一方、債券需要が弱まる場合には、国債などの債券の売りの勢いが相対的に強まるため金利が上昇し、債券価格は下落します。
債券需要に関しては、近年では中央銀行の動向が重要な影響を与えることがあります。中央銀行が国債を買い入れる場合、買い入れを増やす場合には債券需要が引き締まるため、金利の低下要因、債券価格の上昇要因となります。逆に中央銀行が国債買い入れを減らす場合や国債を売却する場合には債券需要が緩むため、金利の上昇要因、債券価格の下落要因となります。
そのほか、株価が堅調な場合には、債券から株式へと大規模な資金移動が発生するような場合があります。また、マイナス金利政策などによって債券の利回りが消失してしまうような場合は、債券から別の資産に資金を移動させる動きが発生することがあります。
なお、国債については、外交的な観点から売買が行われることがあり、相手国へのけん制のため、国債の売却が行われるようなこともあります。
金融政策
金融政策は金利(債券価格)の極めて重要な変動要因となります。金融政策は、政策金利の変更や流動性の供給・吸収などによって直接的に、短期や長期の金利を動かすことを目的とする場合があるからです。
政策金利の引き上げや流動性の吸収(国債などの市場売却)などの金融引き締めが行われる場合には、金利は上昇し、債券価格は下落します。
一方、政策金利の引き下げや流動性の供給(国債などの買い入れ)などの金融緩和が行われる場合には、金利は低下し、債券価格は上昇します。
海外金利
海外の金利は金利(債券価格)の重要な変動要因です。海外の金利が上昇すると国内の金利もつられて上昇し、債券価格は下落する傾向があります。世界的に金利は同じ方向に向いて動くようになっていることや、海外の金利が上昇すると金利差が拡大し海外の債券の利回りの高さの魅力度合いが相対的に増すため資金移動が起こることなどが背景にあると考えられます。
逆に海外の金利が低下すると国内の金利は低下し、債券価格は上昇する傾向があります。
株価
株価の動向は金利(債券価格)の重要な変動要因になります。経験的に株価と金利の動きには関係性があることが分かっていますが、株価が上昇する局面は投資家がリスク選好的な投資行動を行う局面なので、リスク性資産である株式が好まれる一方、債券からは資金が流出し、金利上昇要因、債券価格下落要因となります。
また、株価上昇局面は景気が回復し、物価が上昇する局面であることも金利上昇方向に影響します。
逆に株価が下落する局面は投資家がリスク回避的な投資行動を行う局面なので、安全資産である債券が好まれ、金利低下、債券価格上昇となります。
投資家心理
投資家心理は金利(債券価格)の重要な変動要因になります。投資家心理がリスク選好的な局面では、リスク性資産である株式や不動産(REIT含む)などが買われ、債券からの資金流出が発生するため、金利上昇要因、債券価格下落要因になります。
逆にリスク回避的な投資家心理の局面では、安全資産である先進国債券が買われやすくなり、金利低下要因、債券価格上昇要因になります。
リスク回避的な投資家心理の場合は安全資産への逃避の動きが強まり、安全性が高い米国やドイツ、場合によっては日本などの先進国の債券が買われる傾向があります。債券は満期まで持ち切った場合は利回りが確定しますし、株式と比べると価格変動が小さいため、リスク回避的な相場展開で人気が高まります。
財政政策
財政政策は金利の重要な変動要因になります。国債の場合、財政政策は国の信用に直結するため、債券投資家にとって重要な要素になります。積極財政により、歳出を拡大する場合には、財政状況が悪化しやすいため、金利の上昇要因、債券価格の下落要因となる傾向があります。また、積極財政により、景気の回復や物価の上昇が意識される場合があります。
逆に緊縮財政により、歳出を削減・抑制する場合には、財政状況が改善しやすいため、金利の低下要因、債券価格の上昇要因となる傾向があります。また緊縮財政により、景気の後退や物価の低下が意識される場合があります。
企業の場合は、無理のあるM&Aを行った場合や、有利子負債が積み上がっている場合、固定資産が増大している場合など企業財務の面が問題となります。
発行体の信用
債券の発行体の信用は金利(債券価格)に重要な影響を及ぼします。
まさしく債券のリスクプレミアムとも言える要因ですが、債券を発行している主体の信用力が低下し、元本の償還や利子(クーポン)の支払いが予定通り行われないのではないかという信用リスク(デフォルトリスク)が高まると、リスクプレミアムが増大し、金利の上昇要因、債券価格の下落要因になります。格付会社の格下げなどは発行体の信用が低下したことを示します。
逆に発行体の信用力が高まり、予定通り元本の償還や利子の支払いが行われるだろうとの見方が広がれば、リスクプレミアムが減少するため、金利の低下要因、債券価格の上昇要因となります。格付会社の格上げは発行体の信用力の高まりを示します。
信用力は国の場合は財政収支、経常収支、債務残高、外貨準備高などによって判断します。企業の場合は、企業業績から収益性を検討したり、流動資産と流動負債の比率などから安全性を検討したりして、信用力を判断します。
なお、国の信用力が落ちると、その国の企業の信用力も落ちることがあることに注意が必要です。
まとめ
- 金利(債券価格)の変動要因は、経済成長率に関する要因、物価に関する要因、リスクプレミアムに関する要因(市場等に関する要因)に分けて考えることができます。
- 金利(債券価格)の変動要因のうち、経済成長率に関する要因として潜在成長率、経済成長率、景気動向が、物価に関する要因として物価動向、インフレ期待、為替レート、原油価格動向が、市場等に関する要因として債券需要、金融政策、海外金利動向、株価動向、投資家心理、財政政策、発行体の信用動向が挙げられます。